夜にはだいたい部屋に適当な音楽を流しながら過ごしているんだけれど、そんな風にしながら本を読んでいると曲の歌詞のほうに意識が引っ張られて読むのに集中できないときがあって、なんだかメロディに言葉があるのは鬱陶しいなと感じることがある。ってことで最近はVIDEOTAPEMUSICの「世界各国の夜」をヘビーリピートしている。
ピアニカでもこんなにいい曲が作れるんだねと思うのは、おこがましくも自分の小学生時代の稚拙な演奏と比べてしまうからだ。小学生のころなんて音楽によって再現したい空気感みたいなものは、その人生経験の少なさからあいにく持ち合わせてはおらず、音楽の授業で行う楽器の演奏は楽しいからではなく、ただただ授業だから仕方なくといった感じであった。リコーダーもそう。音楽会で叩いた大太鼓だけは楽しかったが、あれは音楽を演奏するのが楽しかったわけではなく、目立てることが嬉しくてはしゃいでいただけだった。
このアルバムの中でも特に好きな曲が「Royal Host(Boxseat)」。
まず、わざわざタイトルに(Boxseat)と入っているのがいい。そう、金曜日の夜に友達とダラダラしゃべりながら過ごすファミレスでのボックスシートはめちゃくちゃ楽しいんです(なんとなく曲の雰囲気からは、深夜ひとりのファミレスでのボックスシートのような感じもするが)。大学生のころのわたしたちは、ドリンクバーとカレーのお替りし放題さえあれば良く、そんなにお酒を飲めない集団であったのも手伝って、ファミレスの中でもちょっとお高いロイヤルホストには全くいかなかったが、金曜日の夜には居酒屋ではなくファミレスにやたらと行っていた。とりあえずステーキやらハンバーグやらと一緒にドリンクバーを注文して、今度の休みはどこに旅行に行こうだとか、最近の長澤まさみはなんか可愛いだとか、ハンターハンターまた連載再開するなだとか、そんな話をひたすらしていた。3時間ぐらいは余裕で居座っていて、お店を出るまでにトイレに2回は行っていた気がする。途中で一度お腹が空いてカレーのお替りだってしていた。この曲を聴くとそのタイトルとメロディからそんなことを思い出してしまう。ていうか今でもたまにそんな風にして夜を過ごしますけど。
そしてファミレスで過ごす夜は、お店を出てから駅まで歩く道中もいいのだ。「そろそろ行こか」とお店をあとにしたはいいが、やっぱりもうちょっとしゃべりたくて、だいたいいつもファミレスの最寄り駅では電車に乗らずにひと駅余分にしゃべりながら歩いた。春でも夏でも秋でも冬でも季節に関係なく、夜の空気はなんであんなに澄んでいるような気がするのか分からない。みんなでしゃべりながら歩いていると、時折、背後から迫ってくる車の気配をヘッドライトの光で察知する。気配に気づいてから車がわたしたちを追い越すまでの間、後ろを振り返って車の存在を確認するのだが、その際に見える景色からはいつも、さっきまでわたしたちが前を向いて歩いてきた道であるはずなのに、同じ道とは思えない不思議さを感じる。駅に着くと、わたしが乗る電車とは反対方向に向かう電車に乗る友人がだいたいひとりはいて、そんな友人の姿が向かいのホームに確認できる。そうすると『コイツはひと駅分、わざわざ遠くなるのに一緒に歩いてくれてんな』と思い、なんだかニヤニヤしそうになる。こっちのホームが二人以上のときにはしつこく手を振ったりしたものだった(自分ひとりのときにはほとんどそんなことはしない)。
こんな風に「世界各国の夜」と銘打たれているにもかかわらず、わたしが感動するのはやっぱりめちゃくちゃ日本が舞台の曲になってしまう。とはいえ「Speak Low」も「Hong Kong Night View」も「August Mood」も「チャイナブルー新館」もいい曲。全部いい曲過ぎて、本を読むときに歌詞があると集中できないからとこのアルバムを選んだはずであるのに、頭の後ろに手を組んで寝っ転がっては天井を見ながら『いい曲やわ~』と、結局本を読まずに聴き入ってしまうのであった(「Hong Kong Night View」は普通に歌入ってるし)。
VIDEOTAPEMUSIC / ''Hong Kong Night View feat 山田参助(泊)''