牛車で往く

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読んだら友達と会って無駄話したくなる日常系漫画(平方イコルスン「うなじ保険」)


平方イコルスン3年5ヵ月ぶりの作品集。やっと出た。

 

うなじ保険

うなじ保険

 

 

平方イコルスンの作品の魅力は、なんといってもキャラ同士の会話だ。多くの登場人物は女子高生であり、彼女たちの脈略のない話がどんどん展開されていく。また、普段、会話ではおおよそ使うことのない単語が飛び交う、独特の台詞回しも特徴的だ。まあ単純にクセの強い話が多い。一回読んだだけではピンとこないが、読み終わった後に、各エピソードのタイトルをもう一度見直すと、アハ体験のようにスッキリと理解できるようになる話も多い。そして、気が付けば病みつきになっている。キャラの目つきの悪さもいい。今回の「うなじ保険」は、前作「駄目な石」よりも一歩踏み込んだ大人な、シリアスな話が多かった。

 

 

収録されているエピソードのひとつである「断然」は、霊をお祓いする棒(幣(ぬさ)というらしい、勉強になった)を学校に持って来ている女の子を観察している、仲良し三人組の話である。

 

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This is a 幣.

最初、三人はその女の子をみて「学校で霊が見えるとか、キャラづくり大変だな」などとヤジっていたが、そのうちの一人がこっそり数珠を身に着けるようになり、次第に霊の存在を信じていく。そして、ついに女の子が霊をお祓いしている現場を目の当たりにして、三人とも謎の自動お祓いマシーンを作って、学校に持って来てしまう。霊という非現実的なものは信じるけれど、それの対処法として効率重視の超現実的な自動お祓いマシーンを作製するという、現代っ子の女子高生たち。今まで白い目で見られていた幣をもった女の子を、やすやすと飛び越えるほどの祈祷ぶり。そして、このエピソードを読み終わり、"断絶"という言葉の意味を調べなおして、言葉の意味をより深く理解した(勉強になった)。結局、三人とも仲良く霊の存在を信じてしまうのも良い。一人ぐらい正気を保とうよと思うけど、なんやかんやでお前も信じるんかよっていう展開が最高。この、周りの雰囲気に巻き込まれて「色々言ってたけど自分も信じちゃった。テヘッ。」って感じが高校生らしくていい。若いころの価値観なんてすぐ変わる、すぐ変わる。

 

 

「部分」は、部室に出るゴキブリを何とかして退治しようという話。部室内でみんな粗暴にふるまえば、ゴキブリも警戒して出てこないのではないか、ということで語尾にガハハをつけるようにしよう。それに対して、いや、ゴキブリが語尾という概念の通じる相手ならば、話し合いで解決できているはずだという冷静なツッコミ。そして、最終的には、奴らの生き血を撒こうというクレイジーっぷり。顔の表情がぶっ飛んどる。こういう語尾にガハハつけたらいけるんちゃう?っていう考えの浅さが愛おしいね。

 

 

「専用」も面白い。ある男の子のくるぶしを好きになった女の子が(男の子を好きになったわけではない)、そのくるぶしを噛みたいが噛むと怒られてしまうため、くるぶしのレプリカを作ろうという話。途中、くるぶしをくりぬけないか思案するのだが、くるぶし本体の形状を調べて断念する。確かにくるぶしってスプーンかなんかで、くるっと取り出せそうな気がするよね。キウイ食べる時みたいに。調べたら、他の骨と一体化してるから無理やんってなった。冷静になったらそりゃそうやなって感じやけど。そして、最終的にその男の子の本物のくるぶしと、お別れのキスとハグをするというオチ。最後のFin.が絶妙に腹立つ面白さ。

 

 

なんせ登場人物たちが、特殊な性癖やちょっと変わった思考をもっていることが多い。そして、その周りの人物たちはそれに同調したり、支持したりする。霊の対処法やくるぶしを手に入れる方法など、中身のないテーマを建設的に進めていこうとする、その会話が絶妙に面白いのだ。その無駄の中にこそ、本当のコミュニケーションがあるというように。吹き出しの外に書かれている台詞も面白い。わざわざ吹き出しで言わせるような重要な台詞じゃないけれど、その呟くような台詞が会話により彩りを与えるのだ。平方イコルスンの漫画を読むと、友達とファミレスやコンビニの前で無駄話をしたくなる。高校生のころは、よく部活帰りにコンビニ前で食べ物を買ってひたすらに駄弁った。今日はLチキを買おかな、アイスを買おかな。Lチキとジュースのセット行きたいけどお金がないからLチキだけで我慢するわ。アカン、Lチキ食べ終わったら甘いの食べたくなってきた。今日だけアイスも行くわ。みたいなやり取りを良くしていた。満を持して、Lチキを専用のバンズで挟んで食べたけれど、全然美味しくなくてお金がもったいなかった。他にも、読んだばっかりのジャンプの話とか、部活の顧問の悪口やモノマネ。OBってなんであんな偉そうなんやろなとか。振り返ってみれば、無駄の中にこそ青春があったような気がする。無駄がなけりゃ意味がない。嗚呼、高校生に戻りたい。

 

 

平方イコルスンの漫画は、いくつかウェブに無料で公開されている。

 

www.hakusensha.co.jp

 

トーチWebで連載している「スペシャル」も面白い。

 

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トーチWeb 「スペシャル」

 

こちらは怪力の女の子を取り巻く高校生たちの日常を描いた漫画なのだが、出てくるキャラがみんないいやつなのだ。そしてやっぱりキャラの会話が面白い。ああ、私にもこんな友達が欲しい・・・。気になった方は、ぜひ読んでみてほしい。