冬が本気を出し始めてからというもの、部屋の底冷えが酷くなった。こたつに入って座っている間はなんともないのだけれど、寝転がるとカーペットから体に冷気が伝ってきて寒い。セントラルヒーティングやら床暖房やら、いまの自分では実現不可能な解決策ばかりが頭に浮かぶ。現実的にどうにかするべく、自分が寝転がったぐらいの長さの小さめの電気カーペットをネットで探してみると、すぐに見つかったのだが、思っていたよりもちょっとだけ高かった。できるだけ安いものがほしくて探し続けているうちに、電気敷毛布なるものに行き当たった。これが電気カーペットよりも一段安いぐらいで、いいではないかと早速近所のニトリに買いに行く。ニトリではちょうど一年前のモデルがアウトレットで売られていて、これまたラッキーと即購入した。実際に購入したものは思っていたよりも薄っぺらかったが、こたつの中に敷いてみたところ、十分に底冷えを解消してくれた。本来は布団と敷毛布の間に挟み込み、その上に寝転がって掛布団をかぶって眠るといったふうに、その他の布団で蓋をする、保温をする構造で使うものであり、これだけを電気カーペット的なニュアンスで野ざらしで使うとおそらく全然暖かくならなかっただろうが、こたつと一緒に使うことでうまいこと行ってくれた感じがあった。
最近は日本探偵小説全集「江戸川乱歩集」を読んでいる。
その中に収録されている「陰獣」を読んでいたら浅草の辺りの描写があって、自分は隅田川と大川は呼び方が違うだけでだいたい同じだと思っていたのだが、どうやら乱歩には明確にその2つを使い分けている節があった。どう違うのかを調べてみたところ、東京都の建設局のページに説明があるのを見つけた。
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呼び名は時代や場所により種々変化します。古くは千住大橋付近から下流が隅田川と呼ばれ、 上流が荒川や宮戸川と呼ばれていましたが、江戸時代に入ると更に吾妻橋から下流を大川とか浅草川と呼ぶようになりました。 現在の大川端リバーシティなどの呼び名にその名残を見ることができます。
調べたあとでどこかで聞いたことがあったような気になり、でもそれが全く思い出せないので、これを機に脳みそに刻み込もうと思います。そういえば大阪にも大川という名前の川があって(ていうか大川という名前の川は他にも全国にたくさんある)、桜ノ宮駅で降りるとすぐに大川に行き当たるのだが、個人的に大阪の大川は隅田川にちょっとだけ似ていると思っている。川の流れに沿うようにして阪神高速道路の伸びている様子が、隅田川沿いを走る首都高速道路を彷彿とさせる。大川に沿って続く毛馬桜之宮公園は道がきれいに舗装されていて歩きやすく、そんな舗装路を淀川に向かって歩いていると、おそらく伊丹空港発着のものであろう飛行機が頻繁に頭上を飛び交っていく。大川を下っていった先で行き当たる淀川の堤防には、与謝蕪村生誕の地の石碑が建てられていて、自分が一度そこを訪ねたときには、おばちゃんが蕪村の石碑に腰かけて本を読んでおり、どこで読んでんねん、となった。おばちゃんのせいで、蕪村の石碑をまじまじと見ることは叶わなかった。
「陰獣」は乱歩初期作品のベストアルバム的な作品で、「屋根裏の散歩者」などのその他短編のセルフオマージュがよく出てくる。思えば陰獣とはハンターハンターで出てきたと思い、冨樫は乱歩の影響を受けているのか調べてみたら、そもそも冨樫は日本のミステリー全般が好きそうだった。レベルEに筒井康隆の影響が色濃く反映されているという情報もついでに発見し、言われるまで全く気付かなかった(そういえば幽遊白書の海藤のひらがな五十音がひとつずつ使えなくなっていくのも筒井康隆だった)。「陰獣」のあとに読んだ「芋虫」が、言ってしまえば気味の悪い作品で、戦争で両手両足を失った男の姿を想像しては、触覚的なぞくぞく、ぞわぞわを感じた。その際に、自分が小説を読んでいて面白いと思う瞬間のひとつに、ある情緒が起きる、感覚が更新される、風が吹いたみたいにフッと感情が動く、もしくは不意に何かを思い出したりするみたいなことが起きる瞬間があって、それは触覚的な表現によって誘発されることが多い気がすると、昔に考えたのを思い出した。そのときは、朝吹真理子の「きことわ」の序盤、貴子と永遠子が車の中でふざけ合うシーンを読んでそんなことを考えたのだが、そうするとホラー小説が一番そういった感覚を呼び起こすのに向いてるんじゃないかと思えてきた。でも冷静になったら、ホラーの気味の悪さに由来するぞくぞくは、別に小説に限らずともジャンルがホラーのものであれば、なにであろうと同じように感じられるように思えるし、「きことわ」の場合は文章だからこそあそこまで触覚を意識させられたような気がしていて(「きことわ」のそのシーンはあまりに良い)、はっきりとした感情(怖いとか気味が悪いとか)には定まらない触覚的な表現を読むことが、そういったフッとした感覚が起こるためのポイントなんじゃないかと思った。でもこれはあくまで現時点での予想というだけで、実際にホラー小説を読んで確かめたわけではないから、一度読んでみようと思う。