小説の表紙には英語の原題である「R is for Rocket」の文字も書かれていて、それを見てなんで日本語版のタイトルも「ロはロケットのロ」にせんかってん、と思った。文庫本の後ろの方に載っている各短編の原題も「Rocket」という単語がめちゃくちゃ出てくる。でも、確かに小説を読んでいると、出てくる乗り物はアポロみたいなロケットというよりはスターウォーズのミレニアムファルコンみたいな宇宙船を想像した方がしっくり来る感じで、そうするとタイトルを「ウは宇宙船のウ」に変えたのもなるほどなと思えてきた。ってことは、英語のRocketには日本語のロケットという意味以外に宇宙船的なイメージも含まれているんだろうかと思い調べてみると、どうやらそういうわけでもなさそうだった。
日本語の宇宙船は英語で言うと「Spaceship」で、やっぱそうよな、正直調べる前に頭の中に一回「宇宙船=Spaceship」って浮かんできたけどな、となった。そうなると原題の方の「R is for Rocket」ってタイトルがどうなん?という、まさかの本家にいちゃもんをつけるような考えが頭に浮かんでくる。しかし考えてもみれば、ブラッドベリの「R is for Rocket」は1962年に出版されていて、そのころにはまだアポロ11号が月に届いてすらいなかったもんだから(1969年7月20日に月面に着陸)、宇宙船なんてものはまだそんなにメジャーなものではなかったのかもしれない。なんならアポロ計画自体は1960年に始まったものであり、「R is for Rocket」が出版された1962年はおそらくロケットの全盛期真っ只中。だからタイトルが「R is for Rocket」 になってもなんらおかしくはない気がしてくる。では一体、Spaceshipの概念はいつぐらいからポピュラーなものになったのだろうか。いや、でも訳者の大西尹明さんは翻訳版の「ウは宇宙船のウ」 の初版が出版された1968年の時点で「宇宙船」というワードを使っている。日本人の大西さんが使っているのであれば、当時ソ連と宇宙開発の一番をかけて争っていたアメリカでは、それこそSpaceshipという言葉は普通に知れ渡っているもんだったのかもしれない。ていうか小説読んでたら別に宇宙船っぽい乗り物ばっかりじゃなくて、普通のロケットも出てくる。別に宇宙船という乗り物が普通に想像できる時代であったとしても「R is for Rocket」というロケットメインのタイトルでもおかしくない内容。無駄に色んなことを考えてしまった。そして、最終的になんやかんやで「ウは宇宙船のウ」というタイトルにはしっくり来ている。「ロはロケットのロ」ってなんだかショボいもんね。
こういう海外作品の邦題で引っかかるものとして一番に頭に浮かんでくるのは「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」である。原題は「A Hard Day's Night」で、もはや原型なんてものは跡形もなく消え去っているのだが、とりあえずビートルズの作品だと一発で分かるように付けられたんだなということは分かる。とにかくその一点だけに集中して、とりあえずビートルズのアルバムって分かりゃあ売れるだろうから、なんとしてもそれと分かるように……よしっ!タイトルは「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」だ! って感じで名付けられたのかと思うと、なんだか微笑ましい気持ちになる。ヤァ!ヤァ!ヤァ!て。いやヤァ!ヤァ!ヤァ!て。他にも、ポール・サイモンのアルバム「Still Crazy After All These Years」の歌詞カードで、収録されている同名曲の歌詞の「crazy」の部分が「狂っている」と訳されていて、そこはまだ君に夢中になってるみたいなニュアンスでいいやん、狂ってるってやりすぎやろ、とか思った記憶があるが、恋っていうのはえてしてそういうもんなのかもしれんね。知らんけどね。昔の海外のアーティストとなると、あまり個々のアルバムを丁寧に一枚ずつ聴くことはなくて、ベストアルバムだけしか聴かないことが自分には多い。ボブディランやQueen、そしてサイモン&ガーファンクルもそう。結局、ベストアルバムが一番手軽で、それだけで満足してしまう。最近はPixiesのベストの「Here Comes Your Man」ばかりをやたらとリピートして聴いている。